電力の小売自由化を含む電力システム改革のひとつに「発送電分離」があります。しかし小売り自由化は知っていても、発送電分離はその内容を詳しくは知らないという方は多いのではないでしょうか?実は、自由化を平等に進めるために重要な役割を担っているのです。そこで今回は、発送電分離の内容やメリット・デメリットをご紹介していきます。
まず発送電分離を説明する前に、いまの日本の電力システムがどう変わっていっているのか、から説明します。
元々10電力体制(地域独占)となっていた時代には、「発電」「送電」「小売」のすべての部門を地域の大手電力会社(旧一般電気事業者)が独占的にすべてを一貫して行っていました。これは発電・送電にかかる設備費用も小売料金に含める「総括原価方式」をとっていたため設備投資の回収が保証されており、戦後の電力システムの発展を進める効率的な運用方法でした。
しかし、これでは電気料金の競争が行われないため、需要家の選択肢を増やし価格競争をおこす目的で電力自由化がすすめられました。
発電・小売が自由化となり多くの事業者が参入しましたが、電気を届ける送配電部門はどうするべきでしょうか。発電・小売と同様に自由化を実施しさまざまな事業者が参入しては、電柱や電線を会社ごとにいくつも設置していくこととなり経済的にとても非効率です。なので、送配電網は長年かけて構築された既設の電柱や電線を使用し、今まで通り大手電力会社が地域の建設・保守を担うこととなりました。
ここで問題となるのが公平性の問題です。発電・小売に新規参入した事業者が送配電網を公平に使用できないようでは、自由化促進の妨げとなってしまいます。このことから、発電・送配電・小売の各部門から送配電部門を分離することで、中立性を高めることとなりました。これが発送電分離です。
送配電が公平性を高めることが重要だと説明しましたが、公平性・運用方法の違いにより大きく分けて4つの方法があります。それぞれ見ていきましょう。
大手電力会社の同社内にて送配電部門のみ、他部門(発電・小売)の会計と分離することを指します。会計を分離することにより、送配電部門の料金設定や条件などの情報を大手電力会社の小売部門が優遇的に開示される状況を回避でき、公平性が高まります。日本は2003年から会計分離を実施しました。
送配電部門を分社化し別会社として運用する方法です。会計分離では公平性が不十分との声が根強くあり、2020年4月より始まりました。例えば東京エリアは「東京電力パワーグリッド株式会社」が送配電を行い、「東京電力エナジーパートナー株式会社」が小売を運営しています。関西エリアでは「関西電力送配電株式会社」が送配電を行い、「関西電力株式会社」が発電・小売を運営しています。このように、完全に会社を分けることで会計分離よりもさらに公平性を高めました。
ただし、東京エリアは「東京電力ホールディングス株式会社」が持株会社として上記2社とも子会社として運営(持株会社方式)し、関西エリアは「関西電力株式会社」が「関西電力送配電株式会社」を子会社として運営(発電・小売親会社方式)するなど、所有者方法の違いは各エリアでさまざまな方法がとられています。
また、別会社として独立したとしても、送配電事業を同親会社の別子会社に業務委託をしたり、取締役などが小売会社と送配電会社を兼職していては法的分離をした公平性が失われてしまうため、厳しい規制もかけられています。
この法的分離は海外ではフランスやドイツの一部などで採用されています。
法的分離では送電部門が別会社として独立していますが、持株会社方式や発電・小売親会社方式など資本関係では繋がっていました。そこでさらに公平性を高める方法として、資本関係も解消する所有権分離があります。
現在ではイギリスや北欧など電力会社が国有の国が多く採用しています。日本はまだここまでの政策は進められていませんが、法的分離の中立性に疑義が生まれれば所有権分離のニーズが高まる可能性があります。
送配電設備は電力会社で所有したまま、系統運用機能(運用・指令など)の部分を分離する方法です。この系統運用事業者は独立している必要があります。
この方法はアメリカの一部の州で採用されています。
送配電部門の法的分離による分社化は2020年4月に実施しました。対象となったのは基本的に地域の大手電力会社ですが、そのうち沖縄電力は規模が小さいため対象から外れました。一方、Jパワーが各地域間の連系線を多く所有しているため大手電力会社以外で唯一対象となりました。東京電力は2016年4月に国有化のため自主的に分社化しており、実際に2020年4月に分社化が行われたのは東京電力と沖縄電力を除く大手電力会社8社と、Jパワーでした。
電力自由化を促進するために進められている発送電分離ですが、災害時の停電対応など安定供給が失われてしまっては困ります。需要家への従来通りの利便性を保ったまま、適正に発送電分離を進めていけるよう、制度の検討が続けられています。
需要家にとっては直接契約する小売事業者との関りが多いため、送配電部門の改革である発送電分離はあまり身近ではないかもしれません。しかし、電力自由化を公平に進めるために必要不可欠な制度です。今後の状況もみながら、よりよい電力供給のためにさらに検討は続けられていくでしょう。